Ikuko Nagai
喫茶店で始まったものづくりへの思い
本やDVDレンタルを手掛ける大型店舗を辞めて、地元のローカル喫茶店チェーンで働き始めた。当時、店のスタッフの間で“手仕事”が大流行。それぞれがオリジナルのハンドメイド作品を見せ合う中、目を惹いたのが布でできた「ブローチ」。これまで針仕事と全く無縁だったけれど、とても素敵に見えて「こんなのが作れるんだ」と感激し、趣味で手仕事を始めた。
樹脂アクセサリーや編み物など、手仕事と呼ばれるものをいろいろと試してみた結果、刺繍の面白さに夢中に。直径5~6cmの小さなキャンバスに、思うままに針をさしていけば、自分の世界ができあがる。糸を重ねれば立体感が生まれ、糸のゆるみさえも作家の個性になる。すっかり虜になった。
手仕事作家へ
一時期漫画家を目指していたほど絵が得意だったこともあって、刺繍はもちろんのこと、消しゴムハンコも始め、ロゴや店名を彫った店のハンコ作りの依頼も貰うようになった。刺繍をいれた布はブローチに仕上げて、ギャラリーなどで販売し始めた。
そうして人の前に並んだ作品は、たまらなく輝いて見える。そして「カワイイ」と手に取ってもらうほどに、仕事にしたいという思いは溢れるようになっていった。
その頃、知り合いを通じてVulcaCafeと廣畑さんに出会った。そのクリエイティブな発想と展望に惹かれて、チェーンを辞めてSABOTの一員に。これをきっかけに個人事業主へと転換し、「作家として食べて行こう」。そう決めた。
SABOTから広がる世界
思い切って飛び込んでみたものの、趣味を仕事にするのはそう簡単なことではない。『自分の好きな時に好きな作品を作る』というこれまでの姿勢では、個人事業主としてはやっていけない。将来を描き、事業計画を立て本気で向き合う必要があった。
その1つ1つを真剣に教えてくれたのが廣畑さん。作家としての活動を応援してくれると同時に、お金をもらうことのシビアさ、事業主としての心構え、自分の甘い部分も教えてくれる。考え方だけでなく、VulcaCafeの看板のもとで作品を販売させてもらい、作家としての表現の場を増やしてもらったことも。
そうしてSABOTで充実した日々を送る今、作家としても人間としても幅を広がっていっているのを実感する。
いつかは自分の雑貨ギャラリーを構えて独り立ちしたい。その夢に向けた階段の全貌はまだ見えないけれど、一段ずつ力強く踏みしめていこうと胸に刻み、今日も一針一針に想いをこめている。